原作者 無味無臭
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
解説
このエピソードは、エピローグとして書いていたものですが、あまりにも間延びして長くなったので、後日談として切り離しました。そのため、本編のエピローグは、繰り下げなのか繰り上げなのかわからないですが、本来エピローグとして書いたものではなくて、強引にエピローグになりました。
下手にプロローグがあるからいけないのだと思い、プロローグをなくそうと思いましたが、全ての番号を修正しなければいけなくなるので、面倒臭いから止めました。
間延びしたエピソードですが、楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
敏郎は、いつかの太田との約束を守り、行きつけの喫茶店に、遥、ついでに瞭を伴って訪れ、モダンというよりも、古臭さ漂う、昭和を感じさせる外観の喫茶店に入っていく。その内部は、外観同様古臭さかったが、小綺麗に清掃され、清潔感に溢れていた。
「ナタク君、トシ君いらっしゃい。二人揃うのは久しぶりだね。そちらのお嬢さんは初めてだね」
喫茶店のマスターに挨拶された敏郎と瞭は、軽く会釈をして挨拶をする。それに倣い、遥は会釈をした。
「こちらは、長谷川警部補です」
「長谷川遥と言います。よろしくお願いします」
遥は瞭に紹介され、他人行儀に自己紹介をする。
「こんにちは、遥さん。この二人とは、昔からの知り合いでね。遥さんも良かったらたまには寄って下さい」
「はい」
初対面で下の名前で呼ばれ、少し身構えた遥は、ぎこちなく返事をする。
「『遥さん』だってぇ。マスターらしくないなぁ、『遥ちゃん』で良いよぉ」
「なんであなたがそれを決めるんですか!」
「ひいぃーー」
遥は、無神経に言って退ける敏郎に対し、初対面で名を呼ばれた不快感諸々を含めて怒鳴ると、キツく睨む。
突然キレられた敏郎は、情けない声を上げると、瞭の背に隠れて覗き見る。
「ごめんね。大人の女性に対して馴れ馴れしかったね」
それを察し、マスターは丁重に謝る。
「いいえ違います。この人の無神経さには、いつも腹が立っていたので、それが爆発してしまいました。それは気にしていません。すみません」
見抜かれた恥ずかしさからなのか、思わず怒りの感情を露わにした恥ずかしさからなのか、遥は顔を赤くすると、マスターの人となりに触れ、気を許した。
「そういうことにさせてもらいますよ。それにしても、相も変わらず、人に嫌われてるねえ、トシ君は」
「はっはっはっはっ、性分なのでぇ。でもぉ、今日はぁ、その嫌われ者におごりたいと言う、変人がくるんですよぉ」
マスターは、遥に笑顔を向けた後、敏郎に呆れた顔を向ける。そんなマスターに、敏郎は満面の笑顔で答えた。
「そうか。だから今日は予約席なんだね。まあ、今はお客さん居ないけど」
マスターは、自虐を交えて笑い声を上げた。
それを聞いた三人は、苦笑する。
「マスター、笑えないよ」
瞭が代表して突っ込んだ。
「そうだけどぉ、念のためにぃ、場所は予約しといたからぁ」
そう言うと、敏郎は予約していた窓際の席を指差す。
「珍しいな、お前がわざわざ窓際の席なんて。いつもなら、わざわざ避けるのに」
人間嫌いのため、普段は人目を避けている敏郎の不可解な行動に、瞭は怪訝な顔をする。
「今日は遥ちゃんがいるしなぁ。俺は信用されてないからぁ、薄暗い奥の席なんて行ったらぁ、何言われるかぁ」
敏郎は、ビクつきながら、遥に顔が見えないように背を向けると、意味ありげな笑顔を瞭に向ける。瞭は思い出したように小さく微笑み、軽く頷いた。
「信用していませんが、そこまでではありません」
敏郎の言葉に反応する瞭の顔を見た遥は、からかわれていると勘違いし、苛立ちを覚えるが、先程の醜態を晒さないように冷静さを保ちつつ、敏郎の後頭部へと言葉をぶつけた。
「ああそうなんですかぁ。それはありがたいですねぇ。どうであれぇ、美しい遥様にはぁ、日向がお似合いですよぉ」
「嫌みにしては、何か引っかかるわね……」
大袈裟にふざける敏郎の行為に対し、勘の鋭さで他意を感じ取った遥は、逆に冷静になると、刑事の顔に戻る。
「停職中なんですから、その顔は不味いですよ」
遥のアキレス腱を突き、瞭は、冗談めかしに、出かかった杭を透かさず打ち込む。
その言葉と、敏郎ではなく瞭に言われたことで、遥は意気消沈する。
「お前……遥ちゃんを凹ますなよぉ。気にしなくて良いよぉ」
遥は、今回の命令違反や失態を重く受け止められ、停職処分を申しつけられていた。
鋭い指摘に、内心では動揺していた敏郎は、言葉では遥を擁護しつつ、遥に見えないように親指を立てて、瞭を賞賛する。
「すみません……遥さん。取り敢えず座りましょう」
柔和な? 関係となり、敬称ではなく、『遥さん』と呼ぶよう了承を得ていた瞭は、苦笑した顔を遥に向ける。遥に至っても、敏郎と瞭に対し、プライベートでは敬称を使わなくなっていた。
瞭の言葉に、席へと向かった三人は、レジが置かれた入り口に背を向けるように、窓際の奥に遥を座らせ、その正面の窓際に瞭、その横に敏郎が座る。
「どうしました。鈴木さん」
席に着いた敏郎は、親指を窓の外に向けながら、瞭に視線を向けていた。それに気が付いた遥は、疑心の目を敏郎に向ける。
「え? ああ、あそこにぃ……」
「太田さんが見えましたよ」
敏郎が誤魔化そうと口を開き始めた後、窓の外を歩く太田に気が付いた瞭が、言葉を被せた。
「いらっしゃいませ」
チャイムと共にマスターの挨拶が店内に響くと、太田はマスターに軽く会釈を交わした。そして、三人へと軽い挨拶をしながら空席である遥の隣に座る。
人数が揃い、一通りの注文をして落ち着くと、太田が口を開く。
「今日は待たせて申し訳ない」
「時間より十分早いですよぉ。本当、律義だなぁ」
「偉いさんらしく、ドンッと構えて下さいよ。だから出世が遅れるんです」
呆れる敏郎に、瞭も冗談を交えて乗っかかる。
「苦手なんだよな。そういうのは、周りの連中に任せているよ」
数時間前に終えた記者会見の疲労を表情に残したまま、ぐったりと座る太田は、溜め息を零す。